それは一通の招待状から始まった。ドワーフサッカーの旅は端緒についたばかり。第1回 ドワーフサッカー体験会に参加。

Futbol Talla Baja
大学生とともにボールを蹴る参加者たち。

それは一通の招待状から始まった。

軟骨無形成症の息子さんを持ったことをきっかけに「困難ながら軟骨無形成症の人生に少しでも栄光を感じて欲しい」と思い低身長の患者会GLORY TO ACHONDROPLASIA(以下GTA)を立ち上げた代表理事、糸岡栄博さん。23年6月、彼の手元にアルゼンチンから一つの招待状が届いた。グローバル向けコンテンツを用意し、海外の患者会などと積極的に交流をはかっていることで度々連絡を受け取るという。差出人はFederación Internacional Futbol Talla Baja:FIFTB(国際低身長者フットボール連盟(仮訳))。内容は、23年11月にブエノスアイレスで開催される初の低身長者サッカーのワールドカップへの招待状だった。

ワールドカップに向けたチームの立ち上げ

「患者会を立ち上げて10年。新たな可能性への期待」を感じた糸岡さんは選手探しを始める。もともとはハンドボールプレーヤーだった糸岡さん、サッカーは門外漢。プレーヤー探しは困難を極めた。一つの壁は軟骨無形成症の患者とスポーツの関係だ。2万人に1人の割合で発症するというこの病気。日本では推定6000人ほどの患者がいると言われている。彼らの健康管理に関するガイドラインは、米国で1995年に制定されたHealth Supervision for Children With Achondroplasia 「軟骨無形成症の子供の健康管理」が使われることが多い。これによると「9.子供が安全に参加できるすべての身体活動を奨励します。すべての子供は、トランポリン、衝撃の強いスポーツ、ボディコンタクトスポーツ、衝突スポーツを避ける必要があります」とされており、サッカーはなかなか馴染まない。

ドリブルとシュートが中心のサッカー。次はパスの交換か。

選手探しに奔走する中、世田谷区のスポーツイベントで面識を得ていた日本体育大学・陸上競技部 パラアスリートブロック監督 水野洋子さんの教え子に低身長の陸上選手がいることを知る。その2人ともう1人とあわせて3人に水野さんをコーチに、糸岡さんがコミュニケーターとして計5名でアルゼンチンに降り立った。費用の工面も課題だったが、GTA(患者会)の活動で関係構築した外資系製薬会社の寄付で渡航費をカバーした。

ドワーフサッカーについて


ここで改めて、低身長者サッカー/ドワーフサッカーについてまとめる。
軟骨無形成症などを患い、腕や脚が短い方々が行うフットサルだ。最大40x20mのコートにゴールキーパー含めて1チーム7名の選手で競い合う。チームは基本、139cm以下の選手で構成され、149cmまでの選手が2名はいることが認められている。ゴールマウスは彼らの身長にあわせて通常のフットサルのゴール(2mx3m)よりも10-20cmほど低いものが使われる(規則には記述がないため、糸岡さん談)。ボールはフットサルとほぼ同じサイズ。プレー時間は20分ハーフとなる。なお、国際試合は14歳以上の参加が認められている。

この体験会では、GKを置かず楽しんだ。

第1回FIFTBワールドカップに参加


日本からの一行が現地で目にしたのは15の国々からの選手達だった。南米を中心に、11カ国がチームを送り出した。スペイン・フランス・グアテマラは、選手7名が揃わなかったので、日本も含めた混成チームとして予選リーグ戦を戦った。ブラジル、ペルー、パラグアイと対戦したが全敗。日本から参加した3名は、15年以上続く南米の歴史を背にする彼らの走力、パワーの違いを体感して終わった。この辺りはこちらに詳しく書かれているのでお時間あれば是非ご一読いただきたい。

参加した糸岡さん、水野さんは帰国後、ヘルスケア的にはリスクはあるが、低身長当事者にとってこのサッカーが自己実現の一つの形になり、また、小さい頃からスポーツに接することで低身長者の健康的な生活にも寄与するだろうと考えた。そして、長期的な競技の普及と選手の育成を目指して日本ドワーフサッカー協会を2024年12月に立ち上げ、水野さんが理事長に就任した。25年4月国立競技場で行われた「まぜこぜウォーキングフットボール」に参加、4月5日より定期練習会をスタートし、今回4月19日に1回目の「ドワーフサッカー体験会」を開催した。

体験会の様子

参加した皆様。一番左端が糸岡さん、後段左から3番目が水野さん、一番右が原口さん。

参加したのは、7歳から12歳までの4名の軟骨無形成症のお子さんに付き添いの親御さん、妹さん、主催の水野先生、糸岡さん、日体大ホッケー部の学生が2名の計12名。糸岡さんとは患者会で知り合い、チームを作りたいという糸岡さんの言葉に「もう乗るしかない」とサッカー経験のある原口さんがコーチ役を買って出た。

パスを回す原口さん。

当日の会場は、日体大 東京・世田谷キャンパスのグランド。これは彼らの活動が、日体大が「地域課題解決と 共生社会実現のために社会貢献する」目的で設立した一般社団法人NITTAIクラブと連携していることによる。糸岡さんによれば、参加者を集める上での課題は、当事者の住んでいるところと練習場所のマッチングだという。都市部だと参加者は見つかるが、いきやすい練習会場がなかなか確保できない。そんな中、水野先生のコネクションでNITTAIクラブに所属する形を取れたことにより、まずこの問題を一旦解決している。ただ、登録して保険をかけてということで費用がかかる。この辺りが今後の課題だそうだ。

ドリブルで突き進む、えいごくん。

さて、練習会の内容だが、準備体操のあと、2チームに分かれゲーム形式でともかくボールと遊ぶことが主眼だ。お子さんと、日頃なかなか仲間とできないということもあってかひたすらボールを追いかけ、蹴る。ボールを持つをともかくゴールに向かってドリブルする。原口さんが「パス、パス」と声をかけても走るだけ走ってボールをパートナーに向かって渡す。そんな繰り返しで、3回ハーフゲームを行い体験会を終了した。

シュートをきめたしゅうたくんとえいごくんのゴールセレブレーション。

 

しゅうたくんの妹さんも参加、追いかけるえいごくんとあきらくん。

今後の目標は


今後の目標は、「2026年にモロッコで開催が予定されている第2回ワールドカップにチームとして参加すること」だと、糸岡さんは語る。そのためには、日本ドワーフサッカー協会をNPO法人化し、日本障がい者サッカー連盟の8番目の団体として登録してもらうこと。それにより寄付、助成金の獲得ができる体制に持っていければと、ステップを描く。今年11月にパラグアイで開催される世界選手権の参加も打診されている。チームとしてでなくとも、いずれかの形で参加したいとのこと。クラウドファンディングなども予定しているそうなので、今後の動きを注視したい。

あきらくんのシュート!

第1回W杯の記念Tシャツと糸岡さん。


協会は毎週土曜日 12時より日本体育大学世田谷キャンパスにて定期練習を開催している。
また体験会を第3土曜日12時から開催していく予定だ。低身長の方で「普段運動不足の方、経験者とスポーツすることに躊躇されている方、年齢や経験は問いません。
ご参加のほどお待ちしています。」と彼らのFacebookページでは謳われている。健常者の方の参加もOKのようだ。まだ世に出たばかりのこの活動、ぜひ興味のある方は彼らのホームページからコンタクトして欲しい。

この日の主役たち。

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