初開催となるランキング8位以上のチームが参加するIBSAブラインドサッカーエリートカップ2025 in うめきたは、アルゼンチン、コロンビア、タイ、日本が参加。5月25日の決勝戦でアルゼンチンが日本を2-0で破り、初代チャンピオンの座に輝いた。
決勝戦: アルゼンチン 2-0 日本

日本のディフェンスを抜きさるフェルナンデス(背番号8番)
5日前の予選では、GK神山昌士(背番号15)から後藤将起(背番号8)へのゴールクリアランスで先制しアルゼンチンに初めて日本の地で勝利を収めた。その時の対策はされている前提で、「走って勝つ、競い合いで勝つ、ルーズボール回収で勝つ」ことをテーマに中川英治監督は選手をピッチに送り出した。スターティングラインナップは、GK神山、フィクソに齊藤悠希(背番号7)、左アラに平林太一(背番号5)、右に川村怜(背番号10)、ピヴォに後藤。前回は、左アラで永盛楓人(背番号3)が先発し、途中で平林が入るというフォーメーションだった。前回よりも左右に散らして「ボールをしっかり受け止められる選手」という意図が中川監督にはあった。アルゼンチンは前回と同じ、GKヘルマン・ムレック(背番号12)、フィクソにフロイラン・バディージャ(背番号4)主に後ろ目の左アラ、アンヘル・デルド(背番号2)、攻撃主体の右アラ、オズバルド・フェルナンデス(背番号8)、ピヴォにマクシミリアーノ・エスピニージョ(背番号7)というオーダー。
第1ピリオド、キッキオフ。川村がゴール前にボールをパスし、後藤が駆け込むという予選と同じパターンでゲームが始まった。最初の10分間はジャブをうちあい様子をみる。両チーム通じて初の枠内シュートは10分、エスピニージョが、左サイドからカットイン、ゴールまで8mくらいに距離で力強いミドルをゴール右上隅に放つ。

今大会得点こそなかったが、力強いシュートとゴールへの突進で存在感をみせたエスピニージョ。
これを神山が左手一本で弾く。今大会ここまで得点のないエスピニージョのあわやの一撃でゲームが動き出す。日本も後藤がうまくDFとGKの間に潜り込み神山からのボールを受けるシーンがあるが、シュートにならず。そんな中、本大会開幕試合戦のアルゼンチン対タイの試合のようにパディージャが徐々に日本陣内に侵入を試みる。

ドリブル、浮き玉のパス、サイドチェンジのパス、多彩なプレーで日本を翻弄したパディージャ。
18分には左サイドからGK正面のゴールを放つ。そして、残り1分を切ったところで、今度は右サイドからドリブルで運び一旦は後藤に行く手を阻まれるも、体を入れ替えてゴールに迫る。齋藤がDFに走るが、その「一歩前に」パディージャは右足一閃。ゴールニアサイドにグランダーのシュートを突き刺す。1-0とアルゼンチンが先制する。

エスピニージョのPKをガッチリ止める神山。
第2ピリオド、同じメンバーでスタートした日本。開始2分、アルゼンチンにいきなりPKを献上するもここはGK神山がしっかりキャッチ。ただその盛り上がりも束の間、川村のパスを自陣12mライン付近でカットしたフェルナンドがそのまま川村をかわしてドリブルで上がる。齋藤をかわして神山と1対1になり倒れ込みながらもゴールファーサイドにシュート。ボールがネットに吸い込まれ、2-0とアルゼンチンがリードする。ここから日本は後藤に替えてボールを受けられ、かつ力強いドリブルで運べる高橋裕人を投入。

ボールを運ぶ高橋(背番号11/中央)。彼の中でも不完全燃焼だったと思う。もっとできたはずだ。
ただ、いつもの彼の思い切りのプレーがみられずなかなかうまくゲームに入れない。アルゼンチンは無闇に攻め込まず、ボールをキープしたり、攻めに緩急をつけて試合のテンポを支配する。9分に得た右サイド8mのFKを平林がこのゲーム初の枠内シュートを放つもGK正面。

今一歩中に踏み込めて打てなかった平林。(背番号5/中央)
川村も16分、19分と枠内にシュートを放つもいずれもGK正面。結局それ以上の決定的なシーンをつくれず、試合終了のホイッスルがなる。2-0でアルゼンチンが勝利。日本は、特に競い合い、ルーズボールの回収で負けた。

川村もシュートを放つもGKにとめられ、躍動しきれなかった。
同じ相手に2度負けないのが、ランキング1位のアルゼンチン。日替わりでヒーロが現れ誰もが高いシュート能力、得点能力をもつ彼らの底力を実感する大会だった。ただ、中川監督が振り返ったように「簡単なミスから失点しまう」点の修正は常に言われているだけに、どこかこの試合の日本代表のプレーに歯痒いものを感じたのも事実だ。予選ではコロンビア、アルゼンチンに得点できた。ただ、この決勝のように「強度が高い、相手のプレッシャーが早い時の技術発揮について課題がある」と中川監督の語ったが、パリでみられた状況の改善はなかなか一朝一夕にいかないことを痛感する。代表の当面の目標は26年開催予定のアジア選手権での優勝だ。時間はある。フィジカルの強化は確実に成果として目に見える形になってきていることも実感できた。「今までやってきたことでできたこと、できなかったことを整理する」と中川監督はいう。齋藤は「(アルゼンチンのような)相手に対する基準がこの段階で出来ことは今後トレーニングを積んでいくうえで大きな収穫」と振り返り、川村は「この基準を日頃の練習に取り入れて高めていきたい」と前を向いていた。この言葉に期待したい。
3位決定戦: コロンビア 2-1 タイ

今大会2得点と実力を見せたファン・ぺレス(中央)。
コロンビアは、今大会ここまでのチーム得点3点中2点をとっているジョン・ゴンザレス(背番号9)が、準決勝のアルゼンチン戦のレッドカードのため彼抜きでのオーダーとなった。タイも準決勝の日本戦で得点を決めたキィティコーン・ボーディー(背番号35)がベンチスタートとなった。
試合は、第1ピリオド7分、コーナーキックからファン・ペレス(背番号10)がドリブルでカットインし、右45度の角度からファーサイドにシュートを決め先制。第2ピリオド8分には、ゴールクリアランスを右フェンスセンターライン付近で受けた、フリアン・ハラミュジ(背番号11)がそのままフェンス沿いに上がり、カットインからペナルティーライン右45度の地点で左足でゴールファーサイドに放り込み2-0とする。

得点を決めて雄叫びをあげる。ハラミジュ(背番号11)。
その1分後PKからパニャウット・キパン(背番号7)に1点を取り返されるものそのまま、守りきり2-1で勝負した。

自らのファールで与えたPKを防ぐコロンビアのGK、アルディラ。キパンに決められたが大会を通して、彼のPK阻止率は67%。
この一週間を振り返って

フェンス沿い、大階段がびっしり観客で埋まった。
アルゼンチンの優勝で初のエリートカップは幕を閉じた。去年のジャパンカップに比べ、平日昼間の試合でも観客があつまり、体感では去年よりより集客できたのではないかと感じている。特に女子の試合でこれだけ多くの観客が集まったことは大きな収穫ではないか。女子イングランド監督のアンソニー・ラーキンも「道ゆく人たちが足をとめてブラインドサッカーをみる。女子だけではなく男子もともにブラインドサッカーの宣伝には最高だ」と賛辞する。見学に来たパラ卓球の八木 克勝も「パラスポーツが日常になっている」と大会の感想を語った。「毎年続くとこの時期は大阪でブラサカ、と文化になる。卓球もワールドシリーズなどで海外選手が来日した時に、商業施設を活用してエキシビションするなどできるのではないか。今回の運営について学びたい」と更なる展望を語った。JBFAはこの大会と並行して「視覚課題に挑むイノベーションの現在地」というタイトルでセミナーを開催したり、人事交流会などを開催し、単なるスポーツイベントに終わらない取り組みをしていた。「うめきたでブラサカ」という合言葉が定着し、恒例行事としてパラスポーツと社会の一大接点に成長することを願うばかりだ。
この大会の開催はLA28における女子ブラサカの採用のための実績作りという側面もある。その実現のために「全ての国が協力している」と女子オーストラリ監督のサラ・ヘプワースが語っていた。決定時期についての公式発表はないがこの夏にはと言われている。今回の成功がぜひLA28につながっていくように。
●「IBSA ブラインドサッカーエリートカップ 2025 in うめきた」(男子カテゴリー)大会最終順位
優勝:アルゼンチン
準優勝:日本
3位:コロンビア
4位:タイ

勝利の喜びに浸るアルゼンチンチーム。

悔しさが滲み出る日本チーム。
●個人賞

MVP、得点王(3点)に輝いたオズワルド・フェルナンデス(アルゼンチン・背番号8)。

ベストGK:神山昌士(日本・背番号15)。
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