PKを決めて喜ぶ平林太一(左)、ガイドの大室龍大(中)、川村怜(背番号10)
5月18日よりJR大阪駅とグランフロント大阪との間にあるうめきた広場を舞台にIBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)公認、男子のIBSAブラインドサッカーエリートカップ2025 in うめきた(以下、男子エリートカップと略)と女子のIBSAブラインドサッカーワールドグランプリ2025 in うめきた(同じく、女子ワールドグランプリ)、あわせて「ダイセルブラサカウィークin うめきた」が開催される。大会の様子を1日単位でお伝えする。
試合前の波乱のアナウンス

左から、若杉遥(キャプテン)、菊島宙、鈴木里佳。4月20日の公開練習日にて撮影。
前日の5月17日22時、JBFAより女子の菊島宙と鈴木里佳が17日開催されたクラス分け判定結果でNE(Not Eligible/対象外)とされ不参加となるとのアナウンスがあった。合わせて田中一華も体調不良で不参加となる。これにより、選手登録されたFPは4名のみ。日本代表は交代なしで5試合全てを戦うことになった。
女子の場合、B1(全盲または光覚)、B2(光覚から視力0.032、または視野10度以下)、B3(視力0.04から0.1、または視野角40度以下)となっている。JBFAの説明では医学的な変化がおきた分けではなく、環境、外的な要因、コンディション等によって今回の結果となったとのこと。これは永続的な決定ではなく次のIBSAの公式戦で受けるチャンスはあるとのこと。菊島は2022年アジア選手権、2023年世界選手権で、鈴木は2023年の世界選手権でクラス分けを受けてB3の判定を受けている。その上で今回の判定。事前のインタビューでLA2028への期待感を語っていた菊島のことを考えるととても辛い判定だ。申し訳ないがJBFAの補足も含めてすっきりしない。更にこれが対処しようのある決定なのかも含めてもやもやが残る。今は菊島、鈴木が気持ちを切らさず活動を続け、10月の世界選手権に向けて頑張ってほしい。そして、同様のことが起きないよう1ファンとしては祈りたい。
男子エリートカップ開幕戦は、アルゼンチンが1-0でタイに勝利

試合後日本人サポーターと勝利を分かち合う。
今回が初開催となる男子エリートカップ。世界ランキング8位までの国が参加してのトーナメントだ。今回は、アルゼンチン(ランキング1位)、日本(同3位)、タイ(同6位)コロンビア(同8位)によって争われる。開幕戦は、アルゼンチ対タイ。パリパラリンピック準優勝の主力メンバーで来日したアルゼンチンにタイが挑んだ。試合は、縦横のパスと早い縦へのドリブルでタイに迫るアルゼンチに対して、パスカットからのカウンターを仕掛けるタイという構図。非常に緊迫した試合運びとなった。第1ピリオドは0-0で折り返したアルゼンチンは第2ピリオド13分、フィクソに構えていたFroilan Padilla(背番号4番)がセンターライン付近でルーズボールを収めるとするすると中央からやや左サイドにドリブルで上がりペナルティエリアに侵入するとゴールファーサイドにパスを送るようにふわっと浮き球を蹴り入れる。タイのキーパーは虚をつかれて一歩も動けずワザありのゴールで1-0とアルゼンチンがリードする。全体的に早い攻めが多いアルゼンチンのプレーのなかでの一瞬の遅攻、まるでコマ送りでプレーを見るようだった。そのままアルゼンチンが優位にすすめ1-0で勝利した。

Froilan Padilla(背番号4)のゆったりしたドリブルがゴールを生み出した。
敗れたとはいえアルゼンチンに対して一歩も引かなかったタイ。もともとチームをひっぱている「タイのロナウド」ことPanyawut Kupan(背番号7)、Kittikorn Baodee(同35番)、更に再三キーパーから左サイドに構えるMaximiliano Espinillo(背番号7)へのパスをカットしたSomchai Magong(背番号14)など個々のプレーヤーは力強さに溢れている。攻撃がカウンターからのドリブルが主体のため単調となりがちだが油断は禁物であること印象付ける試合であった。

力強いプレーを見せたPanyawut Kupan(左/背番号7)
新生日本代表は宿敵コロンビアに引き分ける

新生日本代表、スタメンもパリから大きく変わる。
パリパラリンピックでの全敗無得点という結果を受けて始動した新しい日本代表の初戦は、そのパリの初戦で0-1で敗れたコロンビアだ。コロンビアはパリと全く同じメンバーが来日。日本は「腹の底ではリベンジという気持ちで向かった(中川英治監督)」というコメントが試合後にでたくらい気合い十分で初戦をむかえた。布陣は、GKが神山昌士(背番号15)、フィクソが齊藤悠希(背番号7)/初代表公式戦、右アラが永盛楓人(背番号3)、左アラが川村怜(背番号10)、ピヴォが後藤将起(背番号8)の布陣。神山と齋藤は佐藤大介と佐々木ロベルト泉の代表引退を受けての入れ替わり。以前は佐々木に代わってフィクソの位置に立つことが多かった永盛が右アラというのが非常に興味深い布陣だ。実際試合を通して永盛は精力的に上・下動を繰り返していた。

3便にわけて来日、一番遅いグループは16日に来日したコロンビア代表。
試合は意外な形でスタートをする。「奪ったボールを失うことからの失点を減らすのが一つのテーマ」と中川監督が語っていた悪い形が、第1ピリオド3分に再発する。日本の自陣10m右フェンス側で一旦は後藤がキープしたと思われるボールをコロンビアのストライカーJhon Eider Gonzalez Hernandez(背番号9)に奪いかえし、そのままカットイン。ゴール正面でGKと1対1となり右下隅にシュートを決め、コロンビアが1-0とリードする。

得点を決めたGonzalez Hernandez(背番号9)に駆け寄るGK Gomez Giraldo(背番号12)
日本はゴールクリアランスの守りから攻撃への素早いトランジションの際に後藤が相手ゴール前で上がったり、永盛(右サイド)、後藤(センター)、川村(左サイド)がフラットに相手陣地12mラインまで上がったりと様々なパターンでコロンビアゴールに迫る。すると第1ピリオド15分、コロンビアは選手交代後に今まで1-2-1とゴール前に1人フィクソをおくフォーメーションから2-2と2人並べる体制にスイッチ。その2人が高い位置にポジションをとりゴール前の空間がぽっかり空く。そこに後藤がするするっと入り込み、GK神山がぴたりとおさまるゴールクリアランスを入れる。フリーでボールを受けた後藤が振り向きざまに右足でゴール左下にシュート、日本が1-1に引き戻す。後藤は去年5月の試合以来のゴール。試合はそのまま第1ピリオドを終えた。

「あそこで仕事をすることに大きな意味がある」と後藤は振り返った。
第2ピリオドになっても一進一退の攻防が続く。13分に後藤がドリブルでペナルティエリアまでもち持ち込んだところ相手に倒されPKを獲得。25年1月にブラサカのルールが改定され、PKが発生した時にピッチにいなかった選手がPKを蹴ることができるようなった。この新ルールを中川監督は活用して平林太一(背番号5)をキッカーに送る。平林は慎重にボールをセットした後、素早いモーションからゴール左下隅に蹴り込み2-1とリードを奪う。試合後は平林は「GKの神様と巷でよばれていますが」と少しおどけたあと「自分が決めなければと思い、狙ったコースにしっかりと蹴った」と振り返った。

平林(背番号5)の早いモーションからのシュートにキーパーは反応しきれず。
ここからコロンビアの二人のストライカー、Gonzalez Hernandezが左、パリで日本から決勝点を奪ったJuan David Perez Quintero(背番号10)が右にはり、2人でサイドチェンジを繰り返しながら日本ゴールに迫る。

カットインしてシュートを放つGonzalez Hernandez(中央)。
試合後、中川監督が「ボールを持った1人にフィールドプレーヤー四人の意識がいってしまい、反対側を自由にしてしまった」と悔やんだが、何度かのトライの後、19分にPerez Quinteroがペナルティーエリアに右からカットイン。DFを1人交わして右足で針の穴を通すようなシュートを左中に決め2-2と試合をイーブンに戻す。そのまま両者とも強度のあるプレーのまま試合終了。0-0で引き分けた。ルール改定で試合時間が1ピリオド15分から20分(ともにプレーイングタイム)にのびた。それもあり日本にとっては勝ちを逃す結果となった。

Perez Quinteroの土壇場でゲームを振り出しに戻す一撃。
この日を終わって暫定首位は、勝ち点3のアルゼンチン、勝ち点1でコロンビアと日本が続き、タイが4位で終わった。5月19日 15:30からタイ対コロンビア、5月20日 19:00より日本対アルゼンチンが次の対戦だ。
会場の様子

観客は階段に座って観戦する。
日曜日の昼間ということもあり、アルゼンチとタイの試合ですでに多数の方が大阪駅からうめきた広場に続く階段に座ってブラサカのプレーを堪能した。特にフェアプレーに対して自然と拍手があがるなど試合に観入っている様子が伺えた。自国の選手を選手を応援する外国人の姿もみられ、初日から多いに盛り上がった。インスタグラマーで11万人のフォロワーのうち90%がアルゼンチン人という京都でアルゼンチンレストランを営む加藤勇さん(Instagram: isamilanga)も訪れアルゼンチン代表を応援、会場を盛り上げていた。

中学1年の時、トヨタカップで来日した1万人のボカ・ジュニアーズのサポーターに圧倒されたことがきっかけでアルゼンチンにはまったと語る加藤さん。
本日5月19日は19時から日本代表女子が、アルゼンチン代表と対戦する。2023年の世界選手権決勝で1-2で敗れた相手だ。山本夏幹代表監督は以前インタビューで「バーミンガムの悲劇から時が止まっている。うめきたの奇跡を起こしたい」と意気込みを語っていた。相手はその試合で2得点したYohana Aguilar (背番号10)とMVPを獲得したGarcia Sosa Barreneche(背番号8)が攻撃の要だ。日本代表は不測の事態の中での試合となるが、新加入の西山 乃彩(背番号9)や日本代表として初試合で初ゴールを決めた島谷花菜(背番号13) 、ここぞという時に頼り得点を何度となくゴールを決めてきた竹内真子(背番号7)、そしてパラリンピアンのキャプテン若杉遥(背番号14)がチームを鼓舞する。GKは世界選手権を経験した和地梨衣菜(背番号1)とGKセレクションを通って選抜された藤田智陽(背番号23)。彼女たちをぜひ後押ししよう。会場に来れない方はオンラインでぜひ!
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