2月8日、町田市立総合体育館(東京都町田市)にて、第22回アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権(以下日本選手権)FINALラウンドが開催され、コルジャ仙台が2-1でfree bird mejirodaiを破り、決勝戦初出場、初優勝を果たした。決勝戦に先立って行われた3位決定戦は、品川CC パペレシアルがbuen cambio yokohamaを1-0で破った。MVPにはコルジャ仙台の石川竜誠が、ベストゴールキーパー賞にはmejirodaiの泉健也が選ばれた。また得点王は準決勝ラウンドで7点を挙げたA-pfeile広島BFCの矢次祐汰が獲得した。
3位決定戦 品川CC パペレシアル 1-0 buen cambio yokohama
第2ピリオード残り38秒。右コーナーからのCKから品川の川村怜がドリブルでカットイン、「ロベルト(佐々木ロベルト泉)がそこがあくから」(川村談)という指示の通りぱっとゴールファーサイドまで開いた空間を見逃さず左足でシュートし決勝点を挙げた。それまで時にFP4人がダイヤモンド型になって川村にあったっていたyokohamaの守備の一瞬の隙を見逃さない、まさに技ありの川村のシュートだった。

決勝点へのシュートモーションに入る川村(左から4人目)、品川のFPが全員でフォロー。
品川の布陣はGK藤原幸紀※(晴眼者以下同じ)、フィクソ佐々木ロベルト泉、左アラ森田翼、右アラ川村怜、ピヴォ橋爪竜万※の1-2-1。対するyokohamaは、GK和地梨衣菜※、フィクソ中村駿介※、アンカー齋藤悠希、左ピヴォ近藤浚世、右ピヴォ和田一文※の1-1-2でゲームに入る。強化指定Bに先日選出された齋藤が「川村選手には絶対に負けたくない」と積極的にあたりにいく。

川村(左 5番)と競る齊藤(右 7番)代表で共にプレーする姿を見たい。
それ以外の選手も前から積極的な守備を行い、川村らを自由にさせない展開が続く。ジリジリと品川が横浜の陣内でプレーする時間が長くなるが、決定的なシュートはなく、0-0でゲームを折り返す。今回、FINALラウンドのアンバサダーに就任したフローラン・ダバディ氏はハーフタイムショウで「yokohamaのゾーンディフェンスに感動」とコメントするほど、緊迫した試合展開だった。

ハーフタイムショウで丹羽海斗(左から二人目)、アンバサダーの中澤佑二、フローラン・ダバディ各氏。
第2ピリオドも高い位置でyokohamaの攻めを受け止め、ピヴォにつく品川の森田、時に上がる佐々木と川村以外にも積極的にゴールに迫るもyokohamaが弾き返す。yokohamaはカウンターからの攻めで、和田や近藤、中村がボールを運ぶシーンが何度かあったが、なかなかボールが収まらず、シュートで終われない。そして、10月のLIGA.iの1-0の勝利に続き、残り38秒で得点を決めた品川が試合を制し3位の座を死守した。齊藤の高い得点能力、和田の爆発力、中村や成長著しい近藤も、代表86ゴールの川村の前に沈黙した。

中村(中央 77番)を止める佐々木(左 7番)と森田(右 9番)。
試合後のインタビューで川村は「LIGA.iとの二冠をチーム目標として取り組んできた。20回大会で優勝、21回大会で優勝を逃しすごく悔しい思いがあったので日本選手権の優勝にこだわってきた中、準決勝での敗戦はすごく悔しかった」と3位に決して満足していないことを伺わせた。一方のyokohamaの齊藤も「LIGA.i2023でfree bird mejirodaiに0-5で敗れた以来の悔しさを感じている」と悔しさを全面に表した。
決勝戦 コルジャ仙台 2-1 free bird mejirodai

先制点となるシュートを放つ佐藤翔。
「目標は優勝」。広島での予選リーグで仙台のエース佐藤翔ははっきりそう宣言した。仙台はチーム事情で去年参加を見送り、今年に標準を合わせてきた。ほぼ週1の練習だがこの夏の1ヶ月、Jリーグの練習を取り入れ(GK佐々木智昭談)、長距離中距離短距離を徹底的に走り込み「滝のような汗」(佐藤談)を流してきた。仙台は2012年の11回大会から参加。2016年15回大会で初得点を記録、2017年16回大会で初のFINALラウンド進出で4位、21年19回大会で3位、22年20回大会ではmejirodaiにスコアレスのままPKに突入、サドンデス10人目の永盛楓人に決められて4位に終わっている。今回が初の決勝進出となる。両者の公式戦での対戦は日本選手権のみで2度。ともにmejirodaiが勝利している。決勝に向けて仙台は、1ヶ月毎週聖和学園短期大学の体育館を借りて練習した。佐藤はそれとは別で週2回、フットサルの練習に参加し、過去にFリーグでプレー経験のある佐々木もフットサルの練習に参加して体育館での試合に備えた。チームのXアカウントでは練習の様子や、過去の振り返り、選手紹介と毎日のようにツイートが上がり、彼らの決勝戦にかける並々ならぬ気持ちが感じられた。

コルジャ仙台のサポーター。仙台他から町田にやってきた。
一方、連覇のかかるmejirodaiにはアクシデントが襲っていた。絶対的な守護神泉健也の負傷だ。代わりに先発したのは高校2年生の森眞規。2023年の地域リーグでゴールを守ったことがあるものの、第21回日本選手権、LIGA.i 2024、この日本選手権でピッチに立っていない。園部優月も鳥居健人も口々に「誰が出ても同じ強度でプレーするのがfree birdのトータルフットボール」と試合後に語ったが、どうだったろうか。
先発は、mejirodaiは、GK森眞規※、フィクソに永盛楓人、アラに鳥居健人と園部優月、ピヴォに北郷宗大とFP4人はいつもの組み合わせ。一方の仙台は、GK佐々木智昭※、フィクソ佐藤翔※、左アラ日景淳也※、右アラ斎藤陽翔、ピヴォ石川竜誠と、準決勝ラウンドと変わらぬ布陣で試合がスタートする。
「受け身にならない」で積極的に前から行くと仙台がキックオフから果敢に前に出る。第1ピリオド開始2分に、ルーズボールを回収した仙台の佐藤がそのままドリブルで持ち上がり、ペナルティエリアライン右60度から右足でシュートして先制点をゲット。さらにその1分後、石川がペナルティ内でインターセプトして「無我夢中で」利き足の左足でゴール右隅に決め2点を先制する。

シュートモーションに入る石川(右 16番)とDFに入ろうとする北郷(左 9番)。
「僕らのスロースターターという悪い面がでてしまった」と鳥居。園部も「コミュニケーションのズレがあった」と振り返る。mejirodaiのゴール裏にいた筆者も、声かけが十分でないと感じた。ここですぐに動いたのがmejirodaiの山本夏幹監督。タイムアウトを取り、改めて戦術を伝え、守備の向き合い方に修正をかける。

すぐさまタイムアウトを取り、修正をかける山本監督(17番と5番の間)。
そこから立て続けに園部がシュートを放ち仙台ゴールを脅かす。更に7分、GKを森から万全ではない泉にスイッチ。

万全な調子ではなくとも最後尾から指示と的確なフィードで存在感を見せた泉。
その後はmejirodaiが押し気味に試合を進める。佐々木も「予想以上に早く点をとれて、どうしようかと考えた。対策されて正直しんどかった」と振り返る。
第2ピリオドに入るとさらに圧をかけるmejirodai。2分には鳥居がCKから、ドリブルで一旦引くと見せかけてそのまま右サイドをあがって右足でペナルティー外45度の位置からゴール、ニア高めに鋭く「持っている型の」シュートを決め、2-1と1点差に詰め寄る。

佐藤(7番)の逆をついてシュートを放つ鳥居。佐々木(39番)の左に位置する。

左から日景、園部、佐藤、齋藤、北郷。園部最後まで、攻めの姿勢を見せた。
仙台の佐々木もタイムアウト時に「最後に笑うか笑わないかは自分たちだよ、あと一歩体をあてればよかった(と思うのではなく)優勝したかったら体張るしかないよ。あの(夏の)走りを思い出せ」と声かける。一方のmejirodai、園部は積極的に5本のシュートを放つも決めきれず時計はすぎていく。残り2分を切ったところで、彼にしては珍しく「絶対に勝つぞ」と大きな声で味方を鼓舞する。その後、鳥居がシュートを2本放つもゴールを割らずタイムアップ。仙台が2-1で初の栄冠を手にした。

試合終了後、mejirodaiのガイド 千葉眞理とグータッチをかわす仙台の佐々木。
試合後、MVPを手にした高校1年の石川は「公式戦初得点、それも決勝点だったことがつながったと思う」と語った。「ようやく目標が達成できた」と佐藤はほっとした表情を見せた。首都圏以外のチームが優勝するのは2014年第13回大会で準優勝したラッキーストライカーズ福岡以来。優勝杯が白川の関を初めて超えた。ここまで北日本リーグで六連覇を果たしていた仙台が初めて全国を制した。
日本のブラインドサッカー
今年は大会スポンサーでもあるアクサ生命から多くの社員も観戦に訪れ、去年742名だった観客数は962名まで伸びた。前回大会より2チーム少ない22チームが参加した日本選手権はこうして幕を閉じた。この大会では、FPとして2名まで晴眼者がピッチ上にいることを許している。全ての国を調べたわけではないが、これは珍しいルールだ。筆者が知っている限り、フランスはB1(全盲、光覚)とB2,B3のリーグが分かれている。ドイツはB1からB3まで一つのチームで戦う。イングランドやドイツでは男女が混じったチームで参戦している(IBSAの公式ルールブックは男女混成を認めており、23年のアジア選手権でオーストラリアチームに女性のプレーヤーが登録されていた)。この日本独自のルールは日本ブラインドサッカー協会(JBFA)は、「ブラインドサッカーを通じて、視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会を実現する」というビジョンを体現する仕組みでもある。

佐藤(7番)のダイナミックなドリブル。山本監督をして「ラグビータックルをしないと止められない」といわしめる。振り切られるのは北郷。
ちなみにFP全員が視覚障害者で実際にプレーしているチームは、今大会でみるとAvanzareつくば、free bird mejirodai、A-pfeile広島BFCだけだ。そのほか、筆者が過去に観戦した試合ではナマーラ北海道、兵庫サムライスターズなどが視覚障害者のみでFPを構成している。31チーム登録されているB1チームでもそのくらいであり、通常、晴眼者が加わっているチームと対戦することが当たり前。まさに混ざり合う社会がピッチの上に実現している。

yokohamaの和田(左 16番)も晴眼者で多くの点を決めるプレーヤーだ。
過去10年の優勝チームを見てみると、晴眼者と視覚障害者のFPが同数のチームは非常に珍しいと思う。山本監督はそういった状況に対して試合後、「B1、B2、B3、晴眼者、男子、女子、中学生から、大人まで一緒にやる競技は多分他にないだろう。それに向けて準備していかなければいけない」と振り返った。更に「中川さん(中川英治代表監督)にあの選手(佐藤翔)いいから男子で呼んでやった方がいいと思いますと伝えた。世界ではあのレベルの選手がいるわけだから」(筆者注:晴眼者は世界選手権、パラリンピックには出場できないので、練習パートナーとしてと思われる)と言葉を継いだ。こういった交わりが今後さらに進み、新たなブランドサッカーの地平が広がることを期待したい。

MVPを獲得した石川竜誠。

ベストゴールキーパー賞を獲得した泉健也。

得点王に輝いた矢次祐汰(A-pfeile広島BFC)7得点。
コメント